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最愛の妹、セイへ
私がこの世を去ってから、一体どれだけの桜が咲き、散っていったことだろう。
私はあの時、桜のごとく散ることができただろうか。
お前が壬生浪士組の門を叩いた時、私がどれだけ自分を責めたか分かるかい。
私があの時命を落としたりしなければ、いやそもそも、お前の前で壬生浪士組のことを口にしたりなどしなければ、とひたすら後悔の念ばかりが私の胸の中で渦巻いた。
お前が自分の身を危険に晒す度、またおまえ自身の手を血で汚す度に、私は己の身を切られるよりも辛い思いをした。
それなのに、お前の傷を癒してやることも、涙を拭ってやることさえ、私にはできない。そう、死んで地獄に堕ちるとは、まさしくこのことなのだと悟ったよ。
一日も早く、一刻も早くこんなところを抜け出して欲しいと、私は臍をかむ思いだった。おかしな話だ、自分自身はあれほどその一員になることを望んでいたのにな。
しかし、あれだけ大勢いる隊士も、お前の度胸に目を曇らされ、誰一人として気づきやしない。頼みの斎藤も、私の家族の事情を知っているくせに、それにいつもは嫌味なほど勘が鋭いくせに、お前のこととなると完全に騙されっぱなしだ。
ただ一人お前の秘密を知っている、沖田さん、あの人に至っては、なんだかんだと言いながらお前が隊に残る手助けをする始末ときた。
こんなところにいさせて、お前を危険に晒したくない、しかしお前には隊を離れる気はない、離隊を決意させるには危険な目に遭って懲りなければならないのか…と、堂々巡りの考えに、私は自分自身に嫌気が差したものだよ。
しかし、私は気づいた。
お前が真に生きるとはどういうことなのか、お前を見ていて否応無しに気づかされたんだ。
「女の幸せ」などと、勝手に私のものさしで一括りにしてはならない強さを、お前は秘めていた。
仲間を思い、人を信じ、誰かの為に剣を振るうお前の姿は、私が理想としてきた武士の姿そのものだった。
そして、人を想い、己に悩み、誰かの為に涙を流すお前の姿は、誰よりも美しく生きる人間の姿そのものだった。
無論、お前の身を案ずる気持ちは、今も以前も寸分も違わない。
ただ、お前がどのように自分の道を選び取り、その道をどのように生きていくか、私はただお前を信じて見守ろうと思う。
誰よりも、誰よりも強く、お前を信じているよ。
ひとつ、お前に謝らなければならないことがある。父上のことだ。
本当は知っていたのだよ、父上と母上が、お互いのことをどれだけ想い合っていたのかを。
ならば何故、とお前は私をなじるだろうか。
いやむしろ笑ってくれ。ただのつまらない悋気だよ。
私にはお前が、あまりにも可愛くて仕方が無かったんだ。いつもお前が私の後を付いて来るのが嬉しくて仕方なかったんだよ。
父上はとても立派な方だった。だからこそ、私が父上に気を許せば、お前の心も私から離れていってしまうかと思ったんだ。
今ではそんなつまらない私情の為に、お前に偽りの父を覚えさせていたことを、ひどく後悔している。
そのためにお前が父上の愛情から顔を背けていたこと、そしてそのことを、後にお前が悔やむことになること…お前にそんな辛い思いをさせてしまった私の未熟を、セイ、どうか許しておくれ。
それほどに、私にはお前が可愛くて仕方なかったのだよ。
さと乃、いや、お里にもずいぶん辛い思いをさせてしまった。
新しい恋人ができたと知った時、私は悋気より遥かに安堵の感を抱いた。彼女には幸せになって欲しかったし、彼ならばそれを実現できると思ったからだ。
しかし…とても悲しい結果に終わってしまったね。
セイ、お前は気づいていないかもしれないが、お前が彼女に世話になっている以上に、彼女にとってはお前が心の支えになっているんだよ。
お前やあの子供を守ることが、お里の生き甲斐になっている。お里が前を向いて生きていく為の力になっている。
そんなお里はとてもきれいだ。私が好きになった気持ちも分かってくれるだろう?
いつの間にかお前も、恋の痛みを知る大人になったのだから。
セイ。お前の名は、「生命」の「セイ」であり、「誠」の「セイ」だ。
女として美しく、武士として清らかに生きていってくれ。
セイ、お前は草でいい。
太陽の光を全身で受け止め、大地にしっかりと根を張って、風の命をこの世に描く草になりなさい。
そしていつか花を咲かせ、実を結びなさい。
しっかりと後の世に伝えるのだよ、この世にお前たちが生きていた証、その確かな命を。
時代の波は今、捉えきれないくらい大きく動いている。
この流れがどこに行き着くのか、私には分からない。
しかし、これまで以上に多くの血が流され、多くの涙が流れ、多くの命が消えていく…そんな空恐ろしい不安が心を突き抜ける。
お前が選び取った道を、私は否定したりはしない。
ただ、お前はどこに行っても「セイ」でいてくれ。
お前の仲間たち、そしてお前自身の命を伝える「生」でいてくれ。
そして、誰よりも誇れる弟、「清三郎」でいてくれ。
最後に、月並みだが…お前の花嫁衣裳をこの目で見ることができないのがとても残念だよ。
お前が兄と慕うのが、何故斎藤なのだろう。何故私自身ではないのだろう。
お前の人生を側で見届けることのできない不甲斐ない私を許してくれ。
遠い空の上から、いつでも、いつまでも、お前のことを見守っているよ。
セイ、達者でな。
富永祐馬
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